ひきこもりが長期にわたり、高齢化した親も子も孤立と不安に襲われる「8050問題」。もちろん、きょうだいたちも例外ではない。ノンフィクションライター・古川雅子氏が現状を取材した。
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出口の見えないまま積み残された問題が、きょうだいにのしかかるケースが増えている。
都内の会社員女性(45)には、20年間顔も見ていない弟(34)がいる。10代からひきこもる弟は、今も実家に住む。だが、9年前、父(76)は闘病中の母と実家を出て、今もアパート暮らしだ。きっかけは弟の暴力だった。
「私は母親との折り合いが悪く、20歳で家を出てしばらく家族と音信不通でした。母が末期がんになって関わらざるを得なくなり、その時初めて常態化していた弟の暴力を知らされたんです」
最初の暴力は妹に対してで、妹は実家を出た。次のターゲットは母親。すでに母は体調を崩していたが、病院嫌いで入院を拒んだ。弟の母への暴力と母の容体悪化に困り果てた父が、女性にSOSを送ったのだ。
母の死後、弟と別居を続ける父が郵便物の受け取りで実家に帰った際、家のメンテナンスをしたことが引き金になり、弟から殴る蹴るの暴行を受けた。それを機に、父は弟に毎月の生活費を渡すのをやめた。
以来、出入りのなくなった実家にひきこもったままの弟は、生きているのかさえわからない。持ち家で家賃はかからず、光熱費は父親の口座から引き落とされ、最低限のライフラインは保っている。だが、父は直接的には一切関わろうとしなくなった。
「せめて生存確認ができれば」と望みながらも問題を先送りする父の代わりに、女性が行政の相談窓口を訪ねても、きょうだいという立場では不審がられ、門前払いされることもあった。
「親と違って、どの距離感で関わっていいのかがわからない」
父の死後、弟に向き合ってサポートするのは、経済的にも精神的にもきょうだいでは難しいと感じる。相続の不安もある。