筋トレを推奨する理由はまだある。筋肉の細胞は、大きく速筋と遅筋に分けられる。速筋は瞬発的に大きな力を出すときに使う筋肉で、遅筋はゆっくりとした動きに使う筋肉だ。魚で言うと速筋は「白身」、遅筋は「赤身」。ヒラメのようにエサをとるときに素早く動く魚は速筋が発達し、マグロのように長くゆっくり泳ぐ魚は遅筋が発達している。
実は、加齢によって筋肉が減少する割合は、遅筋よりも速筋のほうがずっと大きい。筑波大学大学院人間総合科学研究科の久野譜也教授(スポーツ医学)はこう話す。
「40歳を過ぎると、何もしなければ筋肉量は1年で1%ずつ落ちていきます。放っておくと50歳で1割、70歳で3割、100歳では6割もの筋肉が減ってしまう。そしてほとんどが速筋です。歩いたり走ったりという運動では速筋はほとんど使われないので、筋トレをして維持する必要があります」
将来の寝たきり、認知症予防にも、筋トレは有効だ。鍛えさえすれば、80代でも90代でも筋肉は増やすことができる。
「白髪や老眼などの老化現象は防ぐのが難しいが、筋肉は鍛えれば量が増え、機能が高まる。体の中で筋肉だけは若返らせることができるのです」(久野教授)
外資系総合コンサルティング会社に勤務しながら、週末、個人コンサルタントとして7年半で延べ650人の相談に応じているタブタカヒロさん(46)も、筋トレをはじめたことで、見た目も体力も若返ったと感じている。
「重い資料を運ぶなど、体力のいる作業も周りの年下の方より早くできるくらいです」
久野教授はアドバイスする。
「仕事中やテレビを見ながらできる筋トレはいくらでもある。1日10分、週に3日程度でも確実に変わります」
(ライター・村田くみ、編集部・渡辺豪)
※AERA 2019年8月12-19日合併増大号より抜粋
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