特にサマータイムへの移行期は心筋梗塞、脳卒中、および急性心房細動の発生による入院のリスクを含む心血管疾患の罹患率の増加と関連しているほか、睡眠障害や気分障害、および自動車事故のリスクの増加を含む深刻な影響が多数指摘されています。車社会と言っても過言ではないアメリカですが、なんと春における サマータイム への移行後の最初の数日間は、自動車事故による死亡リスクが 最大6% も増加することをコロラド大学ボルダー校のJosef氏らは報告しています。彼らは、概日リズムのずれと睡眠不足が、自動車事故リスクの急激な増加に重要な役割を果たしている可能性があることを指摘しています。
サマータイムへの移行は、公衆衛生及び安全上にも深刻な影響を与えているようです。例えば、メイヨークリニックのBhanu氏らは、過去8年間(2010年から2017年)のインシデントの変化を調べた結果、サマータイムへの移行後の1週間の間に人的ミスに起因する可能性が高いインシデントが18.7%増加していたことを報告しています。
また、カリフォルニア大学バークレー校のSimon氏らは調査の結果、米国におけるサマータイム移行時の睡眠時間の1時間短縮により寄付金が10%減少していたことを報告しています。筆者らは、睡眠の機会が 1 時間減少すると、他の人を助けたいという欲求が減るだけでなく、金銭的な寄付によって助けを必要としている他の個人を助けるという意思決定が損なわれることと関連していると指摘しています。
想像以上に適応することが辛かったサマータイムへの移行ですが、さまざまな健康への影響が報告されていることを知るきっかけになったことは自分自身にとってよかったと今では思えています。11月に時間を戻す時にどうなるのか、また報告したいと思います。
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)