ファンの方に情報を追加するなら、連ドラへのオマージュもちゃんと登場する。
例えば2話での「春田のいいところ、10個言えるか」(黒澤)→「じゃあ春田さんの悪いところ、10個言えますか」(牧)という応酬。相手は牧ではなくなるが、黒澤は同じような問いかけをする。そして相手へのかわいい反応。ファンにはうれしい場面と思う。
単発ドラマから見て、インスタグラムで「(黒澤)武蔵の部屋」をフォローしていた知り合いがいる。都内に勤務する、とあるアラフォー女子なのだが、彼女がこのシーンを好きと言っていた。「人を愛するってダメなところまで愛するということなんだと、すとんと落ちた」と。彼女は「ファンタジーとして純粋に胸キュンになれるのが、おっさんずラブ」とも語っていた。
「女性上司が男性部下を愛するドラマなら、現実と重なって没頭できなかったと思う。男性と男性だから、少女漫画のように邪念なく見られた」という分析とともに、彼女の「ファンタジー」という表現は、よくわかった。
現実における「男性と男性」の恋愛がどのように進行するのかは正直、わからない。が、「おっさんずラブ」ではあくまでもピュアに進行する。黒澤と牧の立ち位置の違いが、ピュアさを際立たせる構図になっていた。
「お前が俺をシンデレラにしたんだ」というせりふが黒澤にあるが、彼は春田と出会って初めて男性を愛した人だ。一方牧は、元カレが同じ営業所内にいるゲイの世界の人。元カレからは、「あっち側の人間を好きになっても、幸せになることは絶対にない」と忠告される。
黒澤は屈託なく春田を「はるたん」と呼び、「会いたくて、震えちゃった」などと乙女のような言葉を口にする。愛をぶつけることに、ためらいがない。
その点、牧は「あっち側の人間」である春田を巻き込むことが春田を不幸にするのではと逡巡(しゅんじゅん)する。自分の思いより、春田の思いを優先する。だけど、愛する心を止められない。
なんてピュアなんだ、黒澤も牧も。吉田と林の演技もあり、泣けるラブコメになっていた。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2019年8月12・19日合併増大号より抜粋