萩尾望都さんは少女漫画に高い文学性をもたらした変革者だ。デビュー50周年を迎え、いまなお第一線で活躍している。「大好きな漫画をこの年まで描き続けてこられて幸せです」と仕事場で語る萩尾さん。創作の源泉はどこにあるのか。
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漫画家・萩尾望都(はぎおもと)さん(70)のデビュー50周年を記念した展覧会が7月25日から東京都内で開かれる。40年ぶりに連載を再開して話題となった『ポーの一族』を中心に、同じく連載中の『王妃マルゴ』や、『トーマの心臓』の原画など、未公開のクロッキーやデッサンを含む300点以上の作品や資料で画業をたどる大規模展だ。イギリスの大英博物館で8月下旬まで開催中の日本の漫画展「The Citi exhibition Manga」にも出品。創作意欲が衰えない萩尾さんに、物語が生まれる源泉を尋ねた。
──『ポーの一族』は新作を熱望するファンが多いなか、ずっと「もう描かない」とおっしゃっていました。2016年に再開した時には大きな話題となりましたが、きっかけは作家の夢枕獏さん(68)だそうですね。
萩尾望都(以下、萩尾):獏さんは甘え上手で、会うたびに「僕、『ポーの一族』の続きが読みたいな」と、やんわりと言ってこられるんですよ。それでつい「もしかしたら、そのうち描くかもしれませんよ」「えー、本当?」なんてニコッと笑われると、描かなくてはいけないような気になってきまして。ずっと躊躇していたのは、「もう同じ顔は絶対に描けないだろう」と思っていたからです。作品は生もので、時間が経ってもう一度同じキャラクターを描いても、同じ顔や線は出ない。自分でも嫌だろうし、読者はもっと嫌だろうと思っていました。そうしたらある日、アイデアが浮かんだので、「16ページくらいの短編を描いたら、獏さんへの義理も果たせるだろう」と。ところが考えているうちにどんどん長くなってしまって、結局は『春の夢』という単行本1冊分になりました。