表示された瞬間、ハッとした。母が数年前にかかった、甲状腺に関係する病気の名前が先頭に表示されていたからだ。いまでは症状もなくなり、母がその病気を罹患したことは私の頭からすっかり消えていた。ここで目にしなければ、今後思い出すこともなかっただろう。怖さというよりも、“親子なんだなぁ”としみじみした感慨を覚える。ふーん、やっぱり、遺伝子って、すごいのかも。

 アルツハイマー病など、項目によっては「現時点での予防・検査・治療などが困難な疾患です」とただし書きが表示され、結果を確認しない選択もできる。一度結果を知ってしまったら知る前の状態には戻れない。「知らないでいる権利」を選ぶ道も残されているのだ。

 だからこそ、子ども向けの遺伝子検査は経済産業省のガイドラインでは推奨されていないし、MYCODEでも提供されていない。親子といえどもその権利を侵害することは望ましくないという考えだ。

 遺伝子検査の結果の活用法はさまざまだ。例えば、保険選びの参考にしたという30代の女性。数年前に夫とともに検査を受けた。

「リスク度合いで掛け金を変えようと考えました。例えばがんのリスクが高ければ、そこを厚くするとか。結局、健康上のリスクはあまりないとわかったので、保険は掛け捨てにしました」

 趣味でランニングに取り組む40代の神奈川県在住の男性は、競技への向き不向きを知りトレーニングの指針作りに役立てたいと検査を受けた。結果は「遅筋(赤筋)よりも速筋(白筋)の割合が高く、瞬発力系の種目に適している」タイプだった。

「フルマラソンでサブスリー(3時間切り)は至難の業だな、と諦めがつき、得意の中距離を頑張ってみよう、と方向性が明確になりました」

 検査を受けた人たちに話を聞いてみて、結果を「やっぱり知らないほうがよかった」と考えている人は誰もいなかったのが印象的だ。「リスクは変わらないのだから、知っていたほうが対策が打てる」「いいことも悪いこともわかったうえで努力したい」などの声が聞かれた。

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