
作家の今村夏子さん(39)が「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞した。2016年の「あひる」、17年の「星の子」に続く3度目の候補。数多くの受賞歴をもち天性の才能の持ち主と言われるが、謙虚に喜びを語った。
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「芥川賞は今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』に決定いたしました。文句なしの決定でした」
7月17日、作家の今村夏子さん(39)の芥川賞受賞が決まった瞬間だ。本命視されながら3度目の候補で満を持しての受賞。選考委員で作家の小川洋子さんが選評を述べると、東京・築地の料亭「新喜楽」に集まった記者からは次々に質問が飛んだ。
「狂気にとどまらない、狂気を突き抜けた先にあるあわれさみたいなものを、本当に描ける人だということを今回の作品でも再認識できたと思います」(小川さん)
受賞作は、「むらさきのスカートの女」と名付けた女をストーカー的に監視する「わたし」の一人称で語られる。「わたし」は彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で働くよう誘導するなど陰ながらさまざまな企(たくら)みを仕掛けていく。一人称の語りの不穏さと語られる内容の奇妙さが、どこかユーモアにも転じるような趣がある作品だ。
今村さんがこれまで刊行した書籍は5点。寡作だが、その作品には昭和の文壇を彩る綺羅星のごとき文豪の名前が寄り添う。
2010年、「あたらしい娘」で太宰治賞を受賞してデビュー(後に「こちらあみ子」に改題)。11年には、同作と「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で三島由紀夫賞を受賞。そして今回、「むらさきのスカートの女」(小説トリッパー春号)で芥川龍之介賞を受賞した。
同日の受賞者記者会見にシンプルな黒のカーディガンとベージュのワンピース姿で現れた今村さんは、少し緊張の面持ちで会見に臨んだ。
「私にはとても手の届かない、一生取れない賞だと思っていたので、今回受賞できたのは本当に驚きましたし、これからもがんばらないとなと思っています」