実際に、「見直すお金」を積み重ねると大きな原資となる。忙しくて足が遠のいたジムをやめたら10年で192万円になるなど娯楽費も見直す余地がありそうだ。嗜好品もしかり。毎日ひと箱タバコを吸っていると月1万5千円、10年で180万円にもなる。喫煙者と非喫煙者では保険料も異なるケースが多い。同時に、住宅ローンを返し終われば、それ以降は返済分を貯蓄に回せる。子どもが巣立てば、教育資金も手元に残る。こうした「未来のお金」があることも頭に入れておきたい。

 経済ジャーナリストの荻原博子さんは、固定費見直しに加え、シンプルな方策を指南する。

「資産を増やすには“借金減らして現金増やせ”。まず、ローンを返済、それから貯金です。バブル崩壊以来、日本企業は不良債権を処理して内部留保を貯めてきた。家計でも将来の危機に備えるにはこれが一番です」

 第一歩が、自分の年金額を把握すること、資産の棚卸しをすることだ。

「年金だけでは足りない」。そうは言っても、自分はいくら年金をもらえるのか、正確に把握しているだろうか。日本年金機構のインターネットサービス「ねんきんネット」では、これまでの年金記録や将来受け取れる見込み額などを確認できる。そして、資産の棚卸し。自分の資産を、マイナス分も含めて書きだしてみる。

「貯蓄や株、保険の解約返戻金、不動産などプラスの資産、住宅ローンなどマイナスの資産を一枚の紙に書きだして、全体を見渡せるようにします。忘れている定期預金や財形貯蓄、拠出型企業年金などがないかも思い出してみましょう。心配しすぎず、まずはプラスマイナスゼロを目指します。若い世代は『50歳でゼロ』が達成できたら安泰です」(荻原さん)

 今回の報告書「高齢社会における資産形成・管理」は、老後の資産形成を促すねらいで金融庁の審議会がまとめたものだ。年金不足に備えるため、投資を勧める内容になっている。

「貯金の延長で余剰資金を投資するなら問題ありません。しかし、“2千万円不足”に焦って退職金をつぎ込むようなことがあってはいけない。金融庁の調査では、銀行の窓口で販売された投資信託の約46%で損失が出ています。正しくリスクを理解しましょう」(同)

(編集部・川口穣)

AERA 2019年7月15日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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