この「属性を語ることで遠回しにほめる」というやり方、結構な割合で遭遇しませんか。「さすが秋田美人」「東大生は頭の回転が速いなぁ」「外資系勤務だから英語ペラペラだね」――。わたしもついやってしまうんですが、美人!頭いい!英語うまい!と本人をまっすぐ称賛する代わりに、本人の周辺へ言葉を投げて照れくささを回避する方法です。
これを赤ちゃんに応用しようとすると、赤ちゃんって属性があってないようなまっさらな存在ですから、言及するとしたら見た目くらいしかないんですよね。それで「まつげが長くて」とか「福耳だから」とかなんとか、容姿にチャームポイントを見い出してほめるようになってしまうんじゃないかと思います。
アメリカでは、たとえほめ言葉のつもりでも人の容姿に言及するのは失礼だとされています。本人にとっては嬉しくないかもしれないし、多くの場合、容姿は本人が選択したものではないからです。たとえばスラッと細身な人をほめたいときは、You look thin《痩せて見える》とは言わず、You look fit《引き締まった体型をしている》という表現を使います。それなら生まれ持った容姿ではなく、食事や運動に気を遣って体型維持をしている(かもしれない)本人の努力を称賛することになるからです。
そんな背景があるので、アメリカの人たちはとにかく「かわいい」のひと言で赤ちゃんをほめてくれるのだと思います。子どもを「かわいい」とほめられて気分を害する親はたぶんいないし、「かわいい」は容姿ではなくしぐさなども含めた子どもの存在自体を肯定する言葉です。
特に我が家の子どもたちは、白人のアメリカ人の父親とアジア人の母親の血が入っているので、アメリカ人の目にも珍しく映るようなのですが(親しくなるとそう言われることがあります)、見ず知らずの人にいきなり黒い目がどうの黒髪がどうのと言われたことは記憶の限り1回しかありません。外見についてあれこれ言いたい気持ちをぐっと抑えて、「かわいい」のひと言にとどめてくれているんじゃないかと思います。日本で「やっぱりハーフはかわいいですね」と初対面の人に山ほど言われたことを考えると、ずいぶん事情が違います。
子どものかわいさって理屈じゃないですよね。理由なんか何もいらない、とにかくかわいい。ほめるときは単純にその一言だけでいいんじゃないかとアメリカに来て気づかされました。
※AERAオンライン限定記事
◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi