AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【映画「よこがお」の場面写真ともう1本おすすめDVDはこちら】
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「淵に立つ」(2016年)の深田晃司監督(39)が、再び俳優・筒井真理子とタッグを組み、新作「よこがお」を完成させた。自分に咎のない事件に巻き込まれた訪問看護師の市子(筒井)が、人生を崩壊させられていく衝撃作だ。
「『淵に立つ』のときのインタビュー記事に載った筒井さんの横顔の写真がすごく美しかったんです。あ、この“よこがお”を撮りたいな、と」
「淵に立つ」では浅野忠信演じる闖入者に傷つけられる家族を、「海を駆ける」では歴史や津波に傷つけられたインドネシアの土地と人々を描いた。人の世の不条理や理不尽さが通底するテーマでもある。
「暴力や理不尽さは、ある種世界の本質でもある。そこにカメラを向けて物語を作ろうとすると、自分が撮るものはこういう世界になっていくんです。自分にとって信じられるものを、毎回モチーフにしているのだと思います」
市子を追い詰める大きな要因となるのは訪問看護先の娘・基子(市川実日子)だ。引きこもりがちな基子は市子を慕っているが、次第に彼女への攻撃性をあらわにしていく。女性同士ならではの複雑な感情のやりとりがリアルだが、
「物語を作るときにその人物が男性か女性かは意識しないようにしています。『女性だったらこうするんじゃないか』という考えは、どこかでステレオタイプな思い込みだったりするので、それを排除してフラットに書くんです」
基子が市子に恋愛感情を抱いている、という設定は脚本には明示していなかった。
「人が人を好きになることは難しく、人と人はそう簡単には分かり合えない。そんな個々の断絶を描きたかった。たまたま市子と基子は女性同士だった、というだけです。基子の感情の底にあるのが恋心かも、ということは市川さんと話し合って決めました。脚本をどう解釈するかは俳優の表現の領域だと思っています。自分が書いたものが表現者を通過してどう出てくるのか、それを見るのが楽しい」