暴力を振るうのはそれが一番手っ取り早いから。しかし、暴力ではなくしつけだと否定する。すると、何が起きるか。
妻は「私の方がおかしかったのか」と混乱し、被害妄想だったのかと思うようになる。しかしそれは夫の作戦で、加害者がよくやる手口だ。その結果、被害者である妻は、感情的になってしまう自分がおかしいと考え、夫に申し訳ないという気持ちになり、最終的には夫に「ごめんなさい」と謝る。すると夫は「わかればいいんだ、これから気をつけろ」と言い返す……。
「これは典型的なマインドコントロールの手法、心理的な操作です」(吉祥さん)
同NPOでは02年から、米カリフォルニア州の加害者プログラムをモデルに更生教育を実施している。週1回、2時間のプログラムで、最低でも52週行う。加害者同士が自身の暴力を振り返るグループワークが中心で、「力と支配」の関係をやめ、「対等・平等」の関係を目指す。「対等・平等」に達するまで平均3年。10年通っている人もいる。
吉祥さんは、被害者支援の在り方としてDV防止法の改正が必要だと話す。
「今のDV防止法は被害者保護の法律。しかし、内閣府の調査では、被害者のうち、実際に加害者と別れることができたのは12.6%。残りの人たちのケアを法律で支援するだけでなく、加害者への更生プログラムの受講を義務化することも重要です」
多くの加害者や被害者を支援してきた横浜市のNPO法人「女性・人権支援センター ステップ」の栗原加代美理事長(73)は言う。
「子どもの時から人との関係性づくりを教えることが大事です。相手の気持ちを尊重し、相手が嫌がることを行ってはいけないと教える。また人を支配しても支配されてもいけないと、義務教育の段階から教えることが大切です」
人格が形成される時期に何ができるのか。悲劇を繰り返さないためにも、社会全体で考え続けなければならない。(編集部・野村昌二)
※AERA 2019年7月8日号より抜粋