前田:ああ「Q10(キュート)」ですね。わあ、観られてるなあ!
黒沢:あれが「おもしろい女優さんだな」と思った最初かもしれない。でも歌手と違って俳優はある種、人の言いなりにやらなきゃいけないですよね。
前:私、自分から「こうです」というのができないんです。最初はそれがすごく悩みでした。でも「一番、正しい人についていけばいいんだ」とわかった。なので監督の言うことを聞いてやってみる、というのが楽しいんです。黒沢さんはなぜ映画監督になったんですか?
黒沢:「映画監督になるぞ!」という強い欲望はなかったんです。映画は好きで8ミリ映画を趣味で撮っていましたが、就職する機会を逸して、なんとなく映画の世界に入った。現場で監督という仕事を見て、特別なカリスマ性や能力がなくてもできるのかなと思ったんですね。自分が作りたいものをちゃんと人に伝えられればいいんだ、じゃあ、自分も作ってみようかなと。
前田:それであんなにすごい作品ができちゃうんですねえ。ご夫婦のことも聞いていいですか? お二人で何か同じ趣味とかあるんですか?
黒沢:ええと……僕らは大学時代に同じ映画クラブだったんですよ。だから映画が共通の趣味といえばそうかなあ。
前田:必ず二人でやる、なにか決まりごととかあります?
黒沢:え? なんでこんな話に?(汗)。まあ意識したことはないですけど、たぶんそういうのはどこの夫婦でもあるでしょうね。それが知らず知らずのうちに生活のリズムになり、たまにどちらかが不在だったりすると、妙に寂しいというか。
前田:え~! 素敵!
黒沢:たいしたことじゃないですよ。例えば朝食のときに僕がコーヒーを淹れて相手がカップを並べる、とかね。なんでもないことだけれど一人ではできなくて、二人だからそうなる。それが幸せや安心の、どこか土台になっているのかなあ。
前田:いい話です~! うちはまだすべてを試してる段階ですけど、何十年か経って「ああ、これをずっと当たり前にやっていたんだ」と気づくのかな。それって最高に幸せですよね。素敵なお話、ありがとうございます。
黒沢:というか、AERA的にはこんな話で大丈夫なの?(笑)
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2019年6月24日号より抜粋