アジア各国を中心に、注目を集めた事件や事故などの現場を改めて見る旅。今回は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の世界本部がある韓国の施設周辺に足を延ばした。昨年の安倍晋三元首相の銃撃事件以降、韓国内でも空気が変わったという。
トンネルを抜け、峠をひとつ越えると“聖地”が見渡せた。
聖地?
そう映るのは旧統一教会の信者だけのはずだが、穏やかな冬の日差しを受けた小さな盆地は、僕の目にも桃源郷のように見えてしまう不思議な場所だった。
ソウルの中心部から北東へ約60キロ、カピョン郡ミサリ路。一帯には教団の関連施設が点在している。
車で1時間半ほどかかった。盆地の入り口で車を降りた。左手に2階建てのショッピングセンターが見えた。ベーカリー、カフェ、レストラン、コンビニ……。右手にはリゾートホテルのようなビルが見える。
清心ビレッジという案内板が見える。旧統一教会の福祉施設で、日本からやってきた信者はここに泊まる。老後をこの施設で……。それは信者たちの憧れでもあるという。
取材に行った昨年末、あたりには雪が残っていた。歩道を歩くと、間もなく右手に清心平和ワールドセンターが見えてきた。巨大な建物だ。ここで合同結婚式が行われる。
視線を左に移すと、山腹にどこかイスラム教のモスクのようにも見える白いドーム。建設中の建物も含めて3棟。「あれが天正宮か……」。足を止めて見上げてしまう。
平地と斜面をうまく使い、絵に描いたような聖地を教団は作りあげた。
インドやイスラエル、そしてベトナムなどで、聖地といわれる街を訪ねていた。どこも信者でにぎわい、雑踏は歩くのも大変だった。
しかし旧統一教会の聖地は静まり返っている。人の姿がない。信者の数に比べれば建物が立派すぎるのだろうか。どこかいびつな聖地にも思えてくる。
カピョン郡の人口は6千人ほど。ミサリ路の盆地一帯にある地元の人々の家は数えるほどしかない。一般の商店は1軒もない。あるのは教団が経営する店だけだ。