思うに、日本社会は「通常」を基準に作られているからではないでしょうか。「通常」って定義が難しい言葉ですが、わたしがここで思うのは、勉学や労働にいそしむ健康な大人。もっといえば強者。彼らが生活しやすいように社会が整えられていて、弱者である障害者とか外国人とか、妊婦や子どもは想定の内に入っていない。ノイズのようなものです。通勤電車は、企業戦士を戦場へ運ぶ箱。そこに妊婦がいたら不協和音が生じるから、歓迎されません。

 対してアメリカは「非常」にひとつずつ対応することで社会が組み立てられていると感じます。「非常」に対処できれば、「通常」もカバーできる。アメリカは場末のモールでも徹底してバリアフリー化されており、それは車いすの人に対応するのが目的かもしれませんが、結果的に足が悪い高齢者にも、重たい荷物を持つ運送屋さんにも、ベビーカーを押すお母さんお父さんにも快適な環境ができあがっています。弱者にやさしい社会は、みんなにやさしい。ここには自分の居場所がある、と感じさせてくれます。

 日本で妊娠・育児中に漠然と感じていた閉塞感、罪悪感は、アメリカに来て消えました。子育てって、別に迷惑をかけることじゃないじゃん。日本社会に受け止める仕組みがないだけだ、と開き直ることができたのです。ま、具体的な解決にはなっていないのですが、気持ちが変わるだけでも違うというか。

 この連載では、アメリカと比較して感じる「ここがヘンだよ日本の育児」についてつらつらと書いていきたいと思います。アメリカという別の価値観をもつことによってわたしはラクになったので、子育てしんどいなぁ、なんか窮屈なんだよなぁ、と日々悶々としている日本のお母さんお父さんにも同じように感じていただければ何よりです。

 いや、もちろんわかっています。わたしの見聞きしたものだけが「日本」「アメリカ」ではないと。育児歴もまだ3年しかありません。ですから、ぜひ皆さんの意見も教えてください。ここのコメント欄で、わたしはそう思いませんけど、自分の場合は違いました、考えが浅いんじゃないんですかといった声を聞かせてください。その新たな価値観がまた、誰かをラクにする一助になるかもしれません。お付き合いのほど、どうぞよろしくお願いします。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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