慰安婦問題をめぐり、対立する意見が飛び交う映画「主戦場」が公開された。監督したミキ・デザキさんは、「見る人にも当事者として議論の渦中へ入って欲しい」と話す。制作に至る背景や制作中の葛藤を聞いた。
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杉田水脈、櫻井よしこ、ケント・ギルバート、植村隆……、元慰安婦の証言に疑問を呈する政治家や言論人、彼女たちを支援する弁護士や学者など総勢27人にインタビューしたドキュメンタリー映画「主戦場」が公開中だ。それぞれの主張をテンポよく対比させ、さまざまな論点を取り上げて検証を重ねていく。監督は日系米国人2世のミキ・デザキさん(35)。コメディービデオや、日本と米国の差別問題をテーマにした作品を制作するYouTuber(ユーチューバー)でもある。
米国フロリダ州に生まれたデザキさんは、小学校に入学した初日から人種差別を受けた。
「両目を手でつり上げながら、『ヘイ! チャイニーズ』と。日系米国人の私は、同じマイノリティーである黒人やヒスパニックからも差別を受けるマイノリティー中のマイノリティーでした」
当時、アジア人差別は他のマイノリティーへのそれと比べ、メディアにも十分に認知されていなかった。それはデザキさんにとって二重の苦しみとなったという。
「差別などないことになっていましたから、ひどい体験をしても人に言えないし、言ったとしても信じてもらえない。もしその頃、アジア人への差別の存在を認め、報じてくれるメディアがあったら、私自身もっと正面から差別に向き合えたのではないかと思うんです」
2007年に外国人英語等教育補助員として来日、中学と高校で教壇に立った。そこでデザキさんは、生徒や同僚が日本に人種差別が存在することすら認識していないことに驚いた。この問題を広く取り上げたいと思い、13年、「Racism in Japan 日本では人種差別がありますか?」を制作する。冒頭には、自身の授業で高校生たちに「日本にも人種差別があると思う人は手をあげて」と問いかけ、40人中2、3人しか手をあげなかった場面を使用した。デザキさんは動画のなかで「これは大きな問題だ」と指摘し、日本における差別の実態を明らかにしていく。