本作はセネズ監督自身が離婚をし、子どもたちを引き取って暮らした経験をもとに生まれた。本作が長編2作目。監督の分身とも言える役を打診されたデュリスは、迷いなく引き受けた。

「前作を観ていたからね。僕はいつも、若い監督たちがどんな作品をつくるか、興味津々なんだ。どんなときも、好奇心を持って彼らのエネルギーに接したいと思っている」

 取材中も、本連載の過去の誌面を見ては「この作品、観ていないんだ、良かった?」と気さくに声を掛けてきた。

 俳優としてのキャリアは20年を超え、フランスを代表する俳優の一人となったいまも、“親しみやすい近所のお兄さん”のような魅力を放つ。デュリスのおおらかで誠実な人柄はスクリーンに確かに映り込んでいる。

◎「パパは奮闘中!」
残業を重ねるオリヴィエの前からある日突然、妻が姿を消す。4月27日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD 「スパニッシュ・アパートメント」

 ロマン・デュリスが「俳優として生きていこうと決めた作品」として挙げたのが、セドリック・クラピッシュ監督の「スパニッシュ・アパートメント」(2002年)。

 その8年前、美術を専攻する学生だったデュリスは、俳優を探していたキャスティングディレクターの目に留まり、クラピッシュ監督の初期の作品で初めて演技に挑戦。“現代のパリの若者”はデュリスのハマリ役となっていた。

 まともに就職するとしたらスペイン語が必要、とバルセロナに留学することを決めた大学生のグザヴィエ(デュリス)。生真面目なイギリス人女性、ベルギーからやってきたレズビアンの女性ら、国籍も性別も異なる6人と共同生活を始める。

 文化の異なる人々と過ごす、いざこざは絶えないが刺激的な日々。フランスに恋人を残してきたが、バルセロナでも恋にうつつを抜かす。

 若さゆえ、自分は何でもできる、と信じるグザヴィエの姿は、観ていて清々しいほど。その後を描いた「ロシアン・ドールズ」「ニューヨークの巴里夫(パリジャン)」と合わせ“青春3部作”とされる。いつの日か、50歳になったグザヴィエも観てみたい。

◎「スパニッシュ・アパートメント」
発売元・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
価格1419円+税/DVD発売中

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年4月22日号

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