マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中
マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中
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イラスト:大嶋奈都子
イラスト:大嶋奈都子

 お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。

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 私は音楽の奴隷だ。

 J―POPという言葉もなかった頃、音楽をどう生活に取り込み、利用するかがもっと切実だった時代がある。

 聴く側から送る側になった今でも、音楽には常に触れている。賢明なるアエラ読者はどうだろう? NO MUSIC NO LIFEに人生を過ごしているだろうか。我々世代ともなると、持ってる金に対して音楽にかけるウェートはあまり大きくないと思う。他に使わなくてはいけない金が多くあるからだ。ちなみに若い頃は持ってる金に対して音楽にかけるウェートは大きかった。住宅ローンも組んでもいないし、将来のための財テクをしようなんて1ミリも考えていないし、あと、携帯代もなかった。持ってる全てを音楽につぎ込んでいたわけでもないが、優先順位は上位だったように思う。「NO MUSIC NO LIFE」は、音楽が今より偉かった時代に神通力を持っていたキャッチコピー。

 われわれは現在、夢のような時代にいる。だって、ただでこれだけ音楽を聴ける時代になったのだから。音楽と結婚したようなものだ。その意味では「NO MUSIC NO LIFE」は“キミなしでは生きていけない”と女性を熱心に口説き倒していた独身時代だったということになる。音楽側からしてみれば「あれ? 昔はあんなに熱心に言ってくれてたじゃない!」ってなところか。

 とにかく今は、享受する側からしてみれば夢のような時代なのである。蛇口をひねれば水が出てくるが如く、音楽を無駄聴きできる状態が当たり前の若い連中は、この状態にウキウキもしないだろう、が、われわれ中年は、井戸を自ら掘って水の在りかを探していたような世代だ。1カ月千円程度の定額聴き放題とか、無料のYouTubeとかパラダイス以外の何ものでもない、ありがたみが違う。少なくとも私はそう思っている。

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