昔と今で明確に違うのが音楽に対するスタンスだ。「聴く」から「使う」に変化したのである。カラオケの普及からその兆しがあった。バブル時代、私はよく新宿の歌舞伎町にいた。当時はカラオケボックスがまだほとんど無く、カラオケパブ全盛であった。リクエストカードを店員に渡し、知らない客の前で歌を披露していた。
ちなみにその頃私は、家ではちょっと背伸びをして、ルーツ音楽や、先端の渋谷系などを聴いていた、が、それは街場で歌って披露できるものではなく、ましてやレーザーカラオケにそのような音楽が入っているはずもないので、それとこれとを完全に分けて考えていた。そしてパブに行くとTUBEやチャゲアスに米米CLUBを歌った。つまり“使い”分けていたのである。
聴く音楽はアーティストが主役で、使う音楽はリスナーが主役。今の時代は各シチュエーション、アクティビティーに沿った音楽を消費者が使用する。聴き手に対して音楽の数の方が多すぎるのだ。ご主人様に使ってもらえるよう音楽が必死に媚びている。
そんな中おじさん世代は、戦中派が「食べる」に貪欲だったように「聴く」に貪欲だ。少ないチャンスだが、コンサートへ出かけるとなれば、再結成してくれたアーティストにここぞとばかりに金を落とす。われわれ世代は“いいお客さん”だろう。私はそれで良いと思っている。音楽も本望だろう。
※AERA 2019年4月15日号