ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
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(※写真はイメージです gettyimages)
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 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

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 先週はインバウンドについて某地方とのミーティング。アメリカで仕事をしていて、オガールで地方再生にかかわっている、ということで、こういう仕事が結構来ます。

 前にも書いていますが、日本人にはとにかく「外人」というカテゴリーで物事を考える悪い癖があります。対象はどこの国の人なのか明確に、と言うと、何もないとか、何となく中国人の爆買いとか言い出すわけですよ。何もないは論外ですが、爆買いは基本的に大手百貨店のない所では起きないのでだめですね、と言うとがっかりして、おしまい……何のために俺を呼んだんだ!!という話ですね。

 更に困るのは、彼ら観光誘致に関わる役人が欧米人旅行者の金の使い方を全く知らないことです。欧米人はそれこそ休暇に命を懸けており、1年間慎ましやかに生活して、年1回の海外旅行で一気に使うのです。世界遺産巡りなんてマッタク興味がない。岩手なら中尊寺といったって「ふーん」てなもん。じゃ何がしたいかというと、1泊30万円払うから、ゆったりしたベッドとおいしい食べ物のあるホテルに泊まりたい、とかいう世界になる。景色を眺めつつビールを飲む時間をこよなく愛し、何するでもなく時間をやり過ごす。それが時間の無駄に思えるのは日本人だけ。

 私も毎年必ずパリに2週間以上行きますが、最早ルーブルにもどこにも行きません。朝からカフェでワイン飲んで街並みを見て、たまにパソコンで仕事をして、夜もバーで地元の人と飲む、そのための2週間です。もったいない!? いいえ、何時はどこ、何時はあそこ、とやっていたらそれこそ日本で仕事に追われているのと何もかわらないストレスフルな日々になります。ここぞとばかりに、時計に支配されない生活を満喫する、これが本当の贅沢・休暇です。

 という観点で見ると、日本のどこの地方にも欠けているのが、そういうゆったりできるホテル。温泉旅館はあの箱根・強羅花壇(1泊ミニマム1人8万円)でも朝食はもちろん夕食時間まで決められ、日中は部屋を出ねばなりませんので、条件から外れます。盛岡で最高級のホテルで1泊1~2万円程度ですから、これはもう論外。消費力のある欧米人を相手に金を巻き上げる体制ができていないのです。合格なのは尾道のguntu(※uにサーカムフレックス)(1泊30万円の豪華客船)か、せいぜい星のやさんぐらいでしょうか。あとは東京のホテルを含めて全部アウト。全くゆったりできません。

 ですからこれだけ観光客が来ても、1人当たりの消費額があの物価の安いタイに及ばない。日本人自身がこの貧乏くさい旅行癖から脱却して、パリでのんびりワインを楽しむ(パリの空気を吸う)ことに価値を見いだすことが先決なのですよ。あなたの地方、わかってる人います?

AERA 2019年4月8日号