経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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「やや!」と思うニュースに遭遇した。いや、むしろ「ははぁーん」と言った方がいい。やっぱりこうなるか、という感じだ。
米金融大手のシティグループに属する英国法人が、日本国債に関する不正な価格操作で利益を上げていた。それを突き止めた証券取引等監視委員会が、同法人に課徴金納付を命じるよう、金融庁に対して勧告した。課徴金額は1億3337万円だ。
不正の手口は、実際に取引を成立させる意思がないのに、大量に売買注文を出して相場をつり上げるというやり方だ。誠にけしからんことである。だが、筆者の「やや!」あるいは「ははぁーん」感のツボはそこではない。問題は、なぜ、こういう不正行為が発生するのかだ。そして、なぜ、それが上手くいってしまうのかという点である。
これらのことに思いをはせた時、そこには、実行犯である金融法人とは別の存在の影が浮かび上がってくる。真犯人の姿だ。その正体は、日本銀行である。
そもそも、なぜ、金融機関は不正な相場操作に手を出してしまうのか。何でもありの証券取引の世界とはいえ、さすがに、愉快犯感覚で、年中悪事にいそしんでいるわけではないだろう。それなりの事情があるはずだ。