稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
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友人が伝統工法で建てた店を見学に。私が手伝った土壁も立派に完成。昔の建物は実に開放的であることに驚く(AERA 2019年3月25日号より)
友人が伝統工法で建てた店を見学に。私が手伝った土壁も立派に完成。昔の建物は実に開放的であることに驚く(AERA 2019年3月25日号より)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 東日本大震災の被災地で、復興住宅での孤独死が、仮設住宅での孤独死と比べて急増しているという記事が朝日新聞に掲載されていました。

 ああ見たことのある話! 24年前の阪神・淡路大震災。新聞記者として取材する中で、ピカピカの復興住宅で孤立する人がいかに多いかという嘆きをたくさん見聞きし、そのような報道もたくさんなされました。しかしその教訓は生かされず、同じことが繰り返されているのです。

 ショック。しかしこれは誰が悪いというより、問題は思った以上に根深いということなのかもしれぬ。だってこれは被災地だけの問題じゃない。復興住宅とは、我々が目指した普通の豊かさの姿です。

 仮設住宅で当座をしのぎ、その間に「ちゃんとした」家を建てれば一段落のはずだった。壁が厚くてプライバシーも保たれ、隙間風も入らず冷暖房が利く家。ところがいざそこで暮らし始めると、快適さと孤独がセットでやってくる。仮設では隣の声が丸聞こえだから、好むと好まざるとにかかわらず近所付き合いが生まれ、酒飲みの困ったおっちゃんの家から物音一つしなくなったら何かおかしいと気づかざるをえない。でも高層マンションではそうはいきません。孤立を避けようと思えば自治会などが意図的に訪問活動を繰り返さねばならぬ。でも自治会だって高齢化してるんですよね。

 これは日本のどこにでもありうる悩ましい問題です。孤独死は今や身近な恐怖。豊かな暮らしとは何かを見つめ直す時じゃないか。

 こんなことを考えるようになったのは、会社を辞めて、家賃圧縮のため築50年の家で暮らすようになったから。隣の声がありえないレベルで聞こえる。夫婦喧嘩やくしゃみまで丸聞こえ。もちろんオートロックなんぞない。最初はギョッとしましたが、今やこれが妙に安心なのです。

 他人の気配を感じつつ自分の気配もにじませつつ暮らす。それは超ゆるいネットワーク。今の時代に貴重な豊かさを期せずして手に入れたのかもしれないと思う。

※AERA 2019年3月25日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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