「台本なし。道具なし。そこにあるのは芸人の腕とパフォーマンスのみ」──。客席からその場でもらったお題からすべてが始まる「即興コントショー」が盛況だ。日本のお笑い文化に新しい風を吹き込んでいる。
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2月上旬、東京・銀座。有名コメディアンが多数輩出している米シカゴの即興劇団「セカンドシティ」のメソッドを採り入れた、即興コントとスタンダップトークのステージ「THE EMPTY STAGE」の東京公演が開催された。出演者は吉本興業の芸人だ。
即興はアメリカではメジャーだが、日本のお笑いの世界ではまだ異例。即興には「yes andの精神」という「何も否定せずに受け入れる」というポリシーがあり、ツッコミという否定を媒介として笑いを起こす日本のお笑いとは正反対だ。
20世紀初頭、シカゴのセツルメントハウスでグループワーク理論などを学んだヴァイオラ・スポーリンが、移民の子どもたちに演劇を教えるために考案したシアターゲーム。そのワークショップから派生した即興劇団が、セカンドシティだ。設立者のポール・シルズは、スポーリンの息子にあたる。スポーリンの著書、『即興術』(未來社)を訳した大野あきひこさんは言う。
「シルズにとって即興は見せるものではなくトレーニングの一環という考え。セカンドシティでも骨組みは作っておき、本番で即興を加える形です」
しかし完全即興でショーとして成立させているのがこのステージ。例えば約40分の長尺の即興コメディーショーでは、お客さんから形容詞を一つ、名詞を一つ、という形でお題をもらうところから始まる。この日のお題は「スマホ」。「スマホを買ってほしいとねだる子どもがスマホの中の世界に入り込んでしまう」というシュールかつ予測不能な展開と出演者の丁々発止のやりとりに、観客は大爆笑だった。よしもとクリエイティブ・エージェンシーコンテンツ事業本部制作センターセンター長の神夏磯(かみがそ)秀さん(40)は即興の魅力をこう話す。