寺崎さんは皆が仮設住宅に愛着を持てるよう、壁をマグネットで飾る活動を始めた。色とりどりのマグネットにハートのシールを貼って、壁に飾り付ける。シールを貼る作業を全国に呼び掛けると、1万枚以上が集まった。仮設住宅でワークショップを開き、住民らと手作業で壁に取り付けた。無機質だった仮設住宅が一気に明るくなった。
マグネットは、すぐに生活になじんだ。自宅のドアにお気に入りを貼る住民がいた。マグネットをきっかけに、これまで話したこともなかった隣人同士に会話が生まれた。自分が送ったマグネットを見ようと、全国から多くの人が釜石に足を運んだ。
活動の舞台だった仮設住宅は16年に取り壊されたが、マグネットはその後も公共工事の目隠し板を彩るなど、活躍する。
寺崎さんは17年に高校を卒業し、慶應義塾大学に進学。ソーシャルイノベーションや街づくりを学ぶ。「釜石のためになることを」という思いは、今も持ち続けている。将来は、釜石にUターンする人を増やす仕組みづくりがしたい。
「高校を卒業すると、多くの人が進学や就職で釜石を離れます。その後釜石のよさに気づいても、戻るきっかけがありません。釜石に戻りたい人と釜石での仕事や暮らしをつなぐ仕組みを作りたいんです」
寺崎さんは今年、成人式を迎えた。故郷・釜石市の成人式では、出席した295人を代表してスピーチもした。寺崎さんは釜石についてこう話す。
「“親”みたいな場所。今の私を形作ってくれた場所だし、安心できる。恩返ししたいですね」
(編集部・川口穣)
※AERA 2019年3月11日号より抜粋
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