写真:gettyimages
写真:gettyimages

「ボヘミアン・ラプソディ」 の最多4冠、マイノリティーのパワーなども注目された 第 91 回米アカデミー賞。二極化が懸念された状況は変化の兆しが見られた。

*  *  *

「風と共に去りぬ」「カサブランカ」「ベン・ハー」「ウエスト・サイド物語」「マイ・フェア・レディ」「ゴッドファーザー」「タイタニック」……。91回を数える米アカデミー賞の作品賞には、誰もが知る名画がきら星のごとく並ぶ。

 ただし、21世紀に入ると、様相がガラリと変わる。

「それでも夜は明ける」「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」「スポットライト 世紀のスクープ」「ムーンライト」「シェイプ・オブ・ウォーター」。過去5年の作品賞受賞作である。果たして何本見たことがあるだろう。そもそもこれらのタイトル、聞いたことがあるだろうか。

 こうなった原因ははっきりしている。ハリウッド映画の二極化である。CGが進化し、予算をかけた大作の多くがスーパーヒーローや宇宙人やロボットが活躍する子ども向けになった。一方、アカデミー賞候補になる作品はほとんどが小粒なアート系。授賞式のテレビ中継の視聴率低下が懸念されるのも当然だろう。

 ただ今年は変化の兆しが見られた。日本でも興行収入119億円を超え、世界的にヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」が、ラミ・マレックの主演男優賞を含む4部門で受賞した。伝説のバンド「クイーン」の故フレディ・マーキュリーの伝記である。

 アフリカの若き王がヒーローになる「ブラックパンサー」がアメコミ原作として初めて作品賞候補となり、美術賞と衣装デザイン賞、作曲賞を受賞。二極に分断された米国映画界に危機感を持ち、もう一度統合しようという機運が感じられた。

 これらを抑えて作品賞を射止めたのはピーター・ファレリー監督の「グリーンブック」だった。粗野な白人運転手とインテリ黒人音楽家が、差別意識の根強く残る米国南部をツアーで回る。いわゆる「バディ」ものの「ロードムービー」。米国映画の良き伝統にのっとった作品だ。

次のページ