魔夜峰央の娘、山田マリエさんによる『魔夜の娘はお腐り申しあげて』は、腐女子の赤裸々な日常をユーモラスに描いた、自身初のコミックエッセーだ。著者の山田さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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山田マリエさんの父親は、『パタリロ!』や公開中の映画「翔んで埼玉」などで知られる漫画家・魔夜峰央(まや・みねお)さん。耽美(たんび)的な絵柄とギャグが盛り込まれた作品世界で、根強い人気がある。山田さんの初のコミックエッセーとなる本書では、赤裸々な腐女子の日常を、家族や友達との交流を交えて描いた。
「きっかけは父の本に漫画を寄稿したことでした。最初は父のことを描こうと思ったんです。昔、父は子育て漫画を描いていたので、描き返してやろう、と(笑)。でも、いくらネーム(アイデア)を出しても、編集からはボツばかり。せっかくの機会だから、自分の好きなことについて描いてはどうか、と提案がありました」
大好きなBL漫画について描き始めると、それまでの苦労が嘘のように、アイデアが次々に生まれてきた。
「思えば子どもの頃、父に呼ばれて『トーマの心臓』と『風と木の詩』は少年同士の関係を描いた名作漫画だから必ず読むように──と言われて。リビングには、父の漫画が載ったBL誌が置いてあるので普通に読んでいましたし、親と喧嘩をしたことも、激しい反抗期もなかったんですよね」
自由な家庭だったのは間違いないが、腐女子になったのは「自分が持っていた資質」と、山田さん。
「ただ環境のおかげで、早く開花したかもしれません」
作品の中で、山田さんはギムナジウムの生徒のような美少年に「男体化」した姿で描かれる。
「自画像だと、絵が持ちませんから(笑)」
母親が主宰するバレエスタジオで指導もしている山田さんと、漫画をめぐるクラスの生徒たちとの会話も面白い。その一方で、各章の扉絵は内省的でシリアスだ。
「これまでは魔夜の娘の顔とバレエの先生の顔を使い分けていました。腐女子であることを隠していないけれど、わざわざ言うことでもなかった。自分の趣味を漫画に描くことで、二つの顔が統合されることへの戸惑いはありました」