思いもかけず、祖父が中国に祖を持つ「陳」氏の末裔だったことを知った。61年の人生で、初めて自分のルーツに触れた私は戸惑った。さらに取材を進めると、世界中に広がり、歴史を編んできた華僑の人々の姿を垣間見ることになった。
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身もふたもなく明るい照明とシャンデリア。1卓10人は座れる丸テーブルの数はざっと100。客の列がホールの外まで続いていた。
2018年11月24日。中国・香港のブライダルホール。会場には、「世界舜裔宗親聯誼會第二十六届國際大會」の文字がプロジェクターで映し出されている。参加者は約千人。アジアの華僑を中心とした年に1度の大交流会が始まろうとしていた。
通称「陳さん世界大会」。日本の華僑の人たちはそう呼ぶ。正式には陳氏を含む中国の十姓の祖先とされる舜氏を崇(あが)め、始祖を同じくする各氏が集う大会である。各国から華僑の所属団体単位で参加。計約50。集まった人たちの姓は圧倒的に陳氏が多い。「陳さん世界大会」というのもうなずけるのだ。
毎年、東南アジアの有力都市で開催され、17年はフィリピンのマニラだった。3泊4日。初日は歓迎会。歌やダンスなどが次々に披露され、大音量で音楽が流される。毛沢東そっくりのタレントも登場した。酒が回り、あちこちで「乾杯! 乾杯!」の嵐。ステージ前は集合写真を撮る人で黒山の人だかり。大宴会は4時間近く続いた。
2日目は、参加者全員で屋外での集団写真撮影。マニラ中心部のビルにある御堂に場を移し、舜氏を祭る「祭祖大典」。午後はホテルで各国代表団役員による活動報告と同士結束の決意などを表明する代表大会。2段横1列、ズラリと役員が整列した様は、共産党大会のような趣だ。食事会も兼ねて3時間。4時間後には2回目の大宴会。最終日には市内観光の後、別れの大晩餐会。散会は深夜12時に近かった。莫大な費用であることは想像できたが、多くは、開催国の団体が拠出しているという。フィリピン宗親会の陳凱復団長は、「費用は全く心配しない。お金は集まる」と平然と答えた。東南アジアの華僑は政財界の重要なポストについている人たちが多く、資金力をうかがわせた。