


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【村上春樹「納屋を焼く」を映像化「バーニング 劇場版」場面写真はこちら】
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村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を映像化したイ・チャンドン監督(64)。カンヌ国際映画祭で「万引き家族」と賞を争い、先日NHKで放映された短いバージョンのテレビ版も反響を呼んだ。
「NHKから『村上作品で映画を』と提案されたとき、最初は彼の世界と私の世界ではかみ合わないような気もしたんです。でもこの短編に出合って興味を持ちました」
主人公ジョンスは幼なじみのヘミと付き合う。が、ヘミがリッチな好青年ベンと出会ったことでその関係は変化する。ベンはジョンスに「古いビニールハウスを焼くのが趣味だ」と語る不思議な男だ。そんなある日、ヘミが突然姿を消す──。監督の解釈が原作をミステリーに編み上げる。
「ベンは本当にビニールハウスを燃やしているのか? 結末を含め曖昧模糊な部分をミステリーにできると思いました。さらに決め手になったのは『若者の怒り』です。最近の若者は国や人種を問わず、世界中でさまざまな理由で怒っている。この物語にもそんな『怒り』につながるところがあるのでは、と」
怒りの根にあるのはジョンスとベンの「格差」だ。畜産農家に生まれ、アルバイト暮らしのジョンス。かたや定職につかずとも豪華なマンションに住み、高級車を乗り回すベン。自分の力ではどうしようもない現実を前にした若者の虚無感がリアルだ。
「過去にも格差はありました。いま問題なのは、それが『目に見えない』こと。格差は確実に広がっているのに、表向き世の中は便利で洗練されているように見えます。バイト暮らしで経済的に苦しくても、カフェでコーヒーを飲めるし、ナイキの靴も履ける。世の中間違っている気はするけれど何が間違っているのかわからない。それが現代なのです」