グローバル社会に通用する人材をどう育てるか。この大きな課題を解決するため、2020年度に向け大学入試改革が進む。その先頭に立つのが早稲田。背景には、多様な学生を確保したいという思いがある。この思いはどの大学も同じだ。トップ私大が進める改革の中身と狙いを探った。
* * *
早稲田大学の政治経済学部が、一般入試で数学を必須化──。
昨年5月末、この発表があると、大学関係者、受験業界、受験生やその親たちに衝撃が走った。早稲田の政経といえば、私大文系の最高峰。現行の一般入試で必要とされる科目は「外国語」「国語」「地歴または数学」で、英・国・社の文系科目だけで受験できた。
それが、2021年4月の入学者を選抜する20年度入試からは、この年からセンター試験に代わって実施される大学入学共通テストを導入し、その数学を必須にするというのだ。
須賀晃一・早稲田大学副総長はこの狙いを語る。
「政治経済学部の学生は入学後に統計やゲーム理論などを学びます。それにあたって、数学の基礎は忘れないでほしいので必須にしました」
入試の内容は、「こういう学生に来てほしい」というメッセージだ。受験テクニックを身につけ、限られた文系の科目だけを極めた人材ではなく、幅広い基礎教養とそれを土台とした思考力を身につけた学生がほしいという意思を、世間に表明したとも言える。
このメッセージは、昨年8月に公表された政治経済学部の一般入試の学部独自試験のサンプル問題にも、色濃く表れている。
試験問題は大問が2問だけ。1問目はアメリカの政治学者、ジョン・ロールズの「正義論」を論じる日本語の文章からの出題だ。「正義論」は「公正としての正義」を説いた現代の古典。1971年の刊行以降、ベトナム反戦運動や黒人解放運動が続いたアメリカで広く読まれた。問題文は「不遇な人々に対して、どのように向き合うことが道徳的に正しいのか」という書き出しから始まり、A4で4ページ以上。ロールズと、それを批判するドォーキンの説を対比し、考えさせる問題だ。