「外国人の医療利用は少なく、むしろ遅れて重症化しがちです。きちんと保険に入り、早く受診してくれれば医療費も少なくすむ。公衆衛生の面からも条件面で差をつけるべきではない。高額療養費を使う際は日本人と同じようにソーシャルワーカーが通訳とともに入り、生活実態を確かめながら面談すれば不正の芽も摘めます」

 厚労省元保険局長の唐澤剛さん(61)は、「国民皆保険という日本の良い医療保険はすばらしい外国人人材を招く大きな要因と考えるべき。明確な悪質事例には対処が必要だが、医療保険の制度改正で不適正な利用を規制するのは難しいと思う」と言う。

 医療保険の不適切な利用では医療ツーリズムに関わるブローカーの存在が医療機関から報告されている。入管、通商の仕組みで規制するのが本筋だろう。大多数の外国人が適正に使う医療保険を変えるのは本末転倒。角を矯めて牛を殺すに等しい。 外国人労働者を雇う雇用主の責任も問われる。協会けんぽに加入させねばならない外国人を会社側の保険料負担のない国保に押しやる。国保にも入れず、放っておく例もある。

 東京都内の基幹病院の関係者は「労災隠し」を指摘する。「工事現場で働く技能実習生が落下物で負傷して日本人上司と来院しました。保険証がなく、明らかに労災。でも、上司は労災と認めず、医療費全額を払って帰った。労災保険料の値上がりや会社の評価を落としたくなかったのでしょう」

 政府は、入管法を改正し、事実上の移民解禁へと舵を切った。入ってくるのは労働力ではなく、人間だ。海を渡ってきた隣人を医療制度の別枠に入れ、たとえば高額療養費制度を使えなくすれば、それはやがて日本人にも跳ね返ってくる。

 平等な国民皆保険を守り、外国人も包摂するビジョンが求められている。(ノンフィクション作家・山岡淳一郎)

AERA 2019年1月21日号より抜粋

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