稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
努力の甲斐あってやっと小さな穴が開いてきた! 嬉しい! (写真:本人提供)
努力の甲斐あってやっと小さな穴が開いてきた! 嬉しい! (写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】努力の甲斐あってやっと小さな穴が開いてきた雑巾

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 超最低限のもので暮らすというとストイックと思われがちですが、そんな大変なもんじゃなくてむしろ超楽なんです。探し物時間ゼロ。とはいえ少々難もあり。モノとの関係があまりに深くなってしまう。例えばふきん。2枚を毎日交代で使うんだが、手ぬぐいとはまあ驚くべき代物で、古いやつは3年近い付き合いで、柄も判別不能なほど薄れ、黄ばんでみすぼらしくなってるのに破れる気配ゼロ。となるとこれをいつ処分していいんだかわからない。っていうか処分なんてできません! 姥捨山に元気な老親を捨てに行くような気持ちになる。

 なので、唯一の引退手段はチクチク雑巾に縫ってボロボロになるまで働いていただき、双方納得のうえお別れすることなんだが、こうして縫った先代の雑巾がこれまた丈夫で全く破れる気配なし! そのうち、稲垣さんは手ぬぐい好きでしょと友人に新品を頂いたりして、どんどんたまる手ぬぐいたち。まるで年寄りがのさばり若者が出世できない会社ではないか。これはいかん! 我が家には働かぬ者を置くスペースなどありません! とはいえ長く連れ添った相棒。若い者には負けんと主張する高齢職人の無言の視線を感じ、引退勧告ができないという無限ループに悩んでいたのでありました。

 で、先日ふと「そうか!」と。雑巾がなかなか破れないのは、雑巾の使い方が足りないからではないか。我が家は狭い上にフローリングじゃないので雑巾で拭くスペースが少ないのです。しかし壁とか窓とかタンスとか、探せばいくらでも拭く場所はある。これを日々せっせと拭けば、丈夫すぎる雑巾も気持ち良く朽ちて成仏してくれるに違いない。モノも人も使わねば成仏できないのであります。

 というわけで日々の掃除時間が増えました。

 この寒い中、毎朝雑巾を水で固く絞り、キュッキュと窓など拭いております。雑巾に暮らしを支配される私。だがヤツは既に老いた親友。親友が成仏できると思えばイッツマイプレジャー。窓ピッカピカ。しかし手が冷たい。

AERA 2018年12月31日-2019年1月7日合併号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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