プーチン氏と安倍首相との会談はシンガポールで23回目。領土交渉はプーチン氏の思惑通りに進んでいるように見える (c)朝日新聞社
プーチン氏と安倍首相との会談はシンガポールで23回目。領土交渉はプーチン氏の思惑通りに進んでいるように見える (c)朝日新聞社
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プーチン大統領が「解決」してきた領土問題(AERA 2018年12月10日号より)
プーチン大統領が「解決」してきた領土問題(AERA 2018年12月10日号より)

 日ロの領土交渉が2島の先行返還に大きく舵を切った。プーチン大統領は、国境画定の総仕上げを狙う。クリミア問題で日本に「踏み絵」を迫る可能性もある。

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 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が11月14日、訪問先のシンガポールで会談し、1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで合意した。日本は択捉(えとろふ)島、国後(くなしり)島を含めた北方四島の一括返還を求めてきたが、歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島の2島返還を優先して議論する方針に転換したことを意味する。

 ロシア側の受け止めは、翌日のプーチン氏の記者会見での発言が象徴している。「(安倍)首相が56年宣言を基礎に、この問題の議論に戻る用意があると言った」。ロシアの立場は変わっていない、というわけだ。

 日本に変化を促したのはプーチン氏の9月の提案だ。「年末までに前提条件なしで平和条約を締結し、その後、すべての問題を協議しよう」。4島にこだわれば領土交渉は進まないとの立場を明確に示した。

 56年宣言はソ連と日本の国会が批准した法的拘束力のある条約。第9項には、平和条約締結後、歯舞、色丹の2島を日本に引き渡すと明記されている。プーチン氏は56年宣言の有効性は認めていた。今回の合意は、2島返還で最終的に決着させる意向を示したとも解釈できる。

 プーチン氏が「2島を引き渡すと書かれているが、どちらの主権になるのか触れていない」と述べたため、日本には「本気度」を疑う声もある。

 だがプーチン氏には、ソ連時代からの懸案だった国境問題を精力的に解決してきた実績がある。40年以上も交渉が続いた中国とノルウェーのほか、旧ソ連のラトビアやエストニアなどとも合意に達し、最後に残った大きな領土問題が北方領土だ。

 しかもロシアはウクライナ南部クリミア半島の併合や米大統領選への介入疑惑で欧米との関係が冷え込み、対ロ制裁にも苦しんでいる。主要7カ国首脳会議(G7サミット)メンバーである日本との関係改善は外交と経済の両面で利点がある。

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ロシア国内に向けたポーズの可能性も?