仏パリ郊外にあるルノー本社 (c)朝日新聞社
仏パリ郊外にあるルノー本社 (c)朝日新聞社

 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が逮捕された資金の不正工作事件は、日仏関係や仏国民の対日感情にも影響を及ぼしかねない事態に発展しつつある。背景にはゴーン容疑者が束ねてきた日仏自動車3社連合の経営方針をめぐる対立がある。その中核に居座るのが仏政府だ。

「今後のアライアンス(連合)のあり方については、関係者が合意、納得した上で進めることが重要だと思っている」

 22日、日産が約4時間にわたる臨時取締役会でゴーン容疑者の会長職解任を全会一致で決めた数時間後、世耕弘成経済産業相は、パリでフランスのルメール経済・財務相と1時間弱会談。その後の記者対応でそう話した。日産、三菱自動車、仏ルノーの3社連合の要だったゴーン容疑者が逮捕されたことで、ルノーの筆頭株主である仏政府が、3社連合の今後の連携の方向性について影響力を発揮することを牽制した形だ。

 また、世耕経産相は、ゴーン容疑者が日産の会長職を解任されたことについて「特段の議論はしていない。民間企業のことだ」と話し、今後の企業連合に関して仏政府から要望があったかどうかなど詳細を明かすのは避けた。

 2週間前の8日、自身に対する東京地検特捜部の捜査が大詰めを迎えていることなど知る由もなかったであろうゴーン氏は、パリから北に約230キロ、ベルギー国境に面する仏北部の工業都市モブージュにいた。スーツの上にロングコートを着て、マフラーを巻いたゴーン氏は、自ら会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるルノーが「最も生産効率がいい」とするモブージュ工場の前で、ルメール経済・財務相とダルマナン行動・公会計相とともにマクロン大統領を待っていた。

 ゴーン氏は2人の閣僚を差し置いて、到着した大統領にいち早く近寄り、満面の笑顔で手を差し出して握手。ルノーの15%の株を保有する筆頭株主である仏政府トップの工場訪問には、国内雇用の創出を同社に期待するマクロン大統領を喜ばせる知らせが用意されていた。ゴーン氏が会長を兼任する日産と三菱自の新型バンの生産をルノーのモブージュ工場とサンドゥヴィル工場で行うという発表だ。3社連合の新型バンの生産拠点として生産拡大を図るもので、仏政府が強く望む国内の雇用拡大にもつながるものだった。

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