浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
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 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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 次の報道が目に留まった。「総務省は東京など大都市に偏りがちな税収を地方に配り直す新制度案をまとめた」(11月14日付日本経済新聞)。「新制度案」なるものの中身は、何やらなかなか込み入っている。どうも、いま一つよく分からない。

 それはともかく、この記事を読んで思ったことが二つある。その1が、東京は日本の中のドイツなのかな、という点だ。その2が、日本は単一通貨圏であることをやめたらどうか、ということである。この両者は、密接に関係するテーマだ。

 ドイツは、ユーロ圏の中で突出した存在だ。経済規模が圧倒的に大きい。単独でユーロ圏の約30%を占めている。そして財政事情がとてもいい。何しろ、財政収支が黒字である。この位置づけから、ユーロ圏の仲間たちに経済節度を守れと説教する。だから嫌がられる。むしろ、あんたのケチケチ主義こそ、ユーロ圏経済の足を引っ張っている。もっと派手にカネを使え。そういう言い方で逆襲されたりする。何かにつけて、他のユーロ圏諸国から目の敵とされる。こうしてみれば、東京にはなかなかドイツっぽいところがある。

 一極集中的な富の偏在に対する対処法は二つに一つだ。一つは、今回総務省が提案しているように所得再分配機能を強化することである。もう一つのやり方が、通貨統合ならぬ通貨解体である。日本が一つの国だからといって、その構成要素である各個別地域経済が、全て円という通貨を統一的に採用しなければいけないということはない。それぞれの地域が、その経済的実力に見合った価値をもつ通貨を採用してなぜいけないのか。

 ユーロ圏が誕生する前、今のユーロ圏の国々は、それぞれ独自の通貨を持っていた。それらの独自通貨を放棄して、ユーロという単一通貨を共有することにしたばかりに、ギリシャの財政危機が発生したり、イタリアでユーロ圏離脱願望が高まったりする。通貨のブティックには、様々な体形の人々にピッタリサイズの選択肢が用意されている方がいい。

 総務省も、分かり難い所得再分配制度を考案するより、日本の一国多通貨制度への移行を提案してみたらどうだろう。

AERA 2018年11月26日号