本誌10月15日号の「読書感想文はもういらない!」で感想文に苦しむ親子の姿を伝えたところ、SNSなどで多くの反響が寄せられた。だが、ノンフィクション作家の神山典士さんは、「すらすら書くコツ」があるという。
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「目、鼻、耳、口、手。これら五感を使って、いまから体験することを感じてメモしよう。自分の考えたことや誰かの言葉などもメモしておいてね」
各地で開く文章講座に集まる子どもたちに対して、私は最初にそう呼びかける。「五感を使って書く」。それが文章をいきいきとさせる秘訣だ。
作文は、こうして書きためたメモを付箋(ふせん)に書き写し、三つに分類して構成する。
「1枚目の画用紙」には最も印象的だったこと。一番書きたいこと。「2枚目の画用紙」には「いつ、誰が、どこで、なぜ、何を、どのように」。いわゆる「5W1H」を。残ったエピソードや言葉は「3枚目の画用紙」に貼る。
書き始めは、「1枚目」に貼った最も書きたいことから。その後、「2枚目」の要素を入れて補うとわかりやすくなる。さらに「3枚目」のエピソードを入れると、広がりが生まれる。
こう指導すれば、「朝起きてご飯を食べて遠足に行きました」というような時系列説明的な文章は出てこない。川端康成の『雪国』は、「トンネルを抜ける」ところから書き出したからこそ読者はその世界に引き込まれる。上野駅を出発する列車のシーンから描かれたら、飽き飽きしていたはずだ。
子どもたちと読書感想文を書くときは、この手法をアレンジする(チャート参照)。作文より手間がかかって難しいけれど、その書き方を指導する格好の手本がある。
「『もっと優しく弾けないかな』。また母に言われてしまった。言葉にできないいらだちや思いを、気付かないうちにピアノにぶつけていた時、辻井さんが私に語りかけた。『ピアノは心の鏡だよ。心の眼を開いて、身体全体で風を感じてごらん』」
これは拙著『ピアノはともだち 奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密』の読書感想文。2012年青少年読書感想文全国コンクールの「内閣総理大臣賞」受賞作の書き出しだ。