若年性認知症と診断を受けて、同施設を訪れたときには、認知症が進行して、仕事を続けることが難しくなっているケースもあるという。それは、物忘れや言葉の不自由さに気がついたとしても、「認知症は高齢者がなるもの」と思い込んで、専門医にかかるのが遅れたり、うつ病や更年期障害の症状と間違われたり、治療開始そのものが遅くなるといった傾向があるからだ。

「気になる症状が出たらそのままにしないで、まず認知症の専門医にかかれるように早期発見、治療できる環境を整備すること。さらに勤めている職場で、そのときの症状、能力に応じて働きながら、少しずつ休職への準備を進めることが望ましいと思います。そのためにも、認知症になっても働くことができる制度を知って活用してほしい」

 そう語るのは、東京都若年性認知症総合支援センター、センター長の駒井由起子さん。

 12年に全国で初めて設置された同センターは、電話で相談を受けて情報提供するだけでなく、訪問や面談などで生活再建までの支援を行う。本人や家族がワンストップで医療・就労・障害福祉・経済保障・介護保険などの情報や支援を得られる。5年前に若年性認知症と診断された50代の男性はセンターを利用して生活を立て直した。

 男性は診断の1年前に大きなミスをして降格処分となった。妻は「退職させられるかもしれない」と切羽詰まった様子でセンターを訪れたという。男性は仕事だけでなく実家への道順も間違えてしまい、本人も様子が変わったことに気づきようやく専門医を受診した。「前頭側頭型認知症」と診断が下されたときにはすでに中等度まで進んでいた。

「男性は指定難病なので医療費負担を少なくするために医療費助成制度を申請し、休職期間中でも収入が途絶えないように、傷病手当金の受給手続きをしました。休職期間を含めて3年間職場には在籍していましたが、退職後は、障害年金を受けながら就労継続支援B型事業所で働いています。週に1~2回は介護保険サービスを使いデイサービスにも通っています」(駒井さん)

 認知症を発症する前とは異なる形であっても、「働く」場を確保できたことで、男性と家族は、ひとまず落ち着きを取り戻したという。

 就労支援から介護、福祉、医療など複合的なサポートを受けられる「若年性認知症コーディネーター」が配置された相談窓口は各都道府県に設置されている。

「『おかしい』と思ったことはそのままにしないで、まず電話で相談してほしい」と駒井さんは呼びかける。(ライター・村田くみ)

AERA 2018年11月12日号より抜粋