子どもたちの声が響く寺は他にもある。
東京都調布市にある浄土真宗本願寺派覚證寺(かくしょうじ)は毎月第1、第3木曜日、近隣の子どもたちや親子連れが集まる「こども食堂」に変身する。地元企業から寄付された野菜などを使い、主婦や大学生らのボランティアが調理を手伝う。1食あたり大人300円、子どもは100円だ。
2016年4月、孤立した親子や子どもたちが大勢でご飯を食べられ、自由に遊べる場所にしたいと住職の細川真彦(48)が発案、PTA関係者や地域の民生委員などの協力を得てスタートした。
始めたばかりのころの参加者は20人足らずだったが、口コミで評判が広がり、今では多い日は100人近くが集まる。
寺は安土桃山時代の1594年創建の古刹。細川は22歳の時、先代の住職だった祖父の兄の養子となり、寺を継いだ。住職になってみて、寺や僧侶に対する社会の信頼がないことを痛感したという。
「税金払わなくていいねとか、なのに高いお布施を払わないといけないとか。そんな話ばかりでした。お寺という場所が何をやっているのか。それが見えないと、いくら仏教の教えがよくても伝わらない」
寺という場を使いできることは何か。5人の子どもの父親でもある細川は、子どもが通う小学校のPTA会長などを経験するうち、近所に母子家庭や外国籍の子どもが多く、一人でご飯を食べたり留守番をしたりして「孤立」している子どもが多いことに気づいた。
何とかしたいと考えていた時、テレビで地域の子どもたちやその親に安価で栄養のある食事と温かな団らんの場を提供する「こども食堂」のニュースを見て、寺で開こうと決めた。
こども食堂の日は寺のほとんどを開放していて、本堂は勉強部屋に、居間は遊び場になって子どもたちが元気に飛び回っている。
細川が言う。
「今、多くのお寺が住職の家と思われてしまっている。だから檀家さんも地域の人も、お寺に足を運ぶとき自分をお客さんと思っている。しかし本来、お寺はみんなのもの。多くの人に自分のお寺と思ってほしい」
(文中一部敬称略)(編集部・野村昌二、ライター・秋山謙一郎)
※AERA 2018年10月29日号より抜粋
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