AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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■いま観るシネマ
ああ、これはうちの両親だ──誰もがそんな思いを抱くに違いない。認知症を発症した80代後半の母と、その母を支える90代の父を一人娘である信友直子監督(56)が撮ったドキュメンタリー。2016年にフジテレビ/関西テレビ「Mr.サンデー」で、翌17年にBSフジで放送され大反響を呼んだものに、追加取材と再編集をし、映画化した。
「14年に母はアルツハイマー型認知症と診断されました。さすがに躊躇して『撮ってもいい?』と父と母に相談したら『直子の仕事だから協力するよ』と。感謝しています」
撮影中は常に「ここまで撮っていいのか?」と揺れる気持ちもあった。
「母が洗濯物の山の前で、やる気をなくしてゴロンと横になってしまうシーン。娘としては手を貸すべきなのですが、監督としては『この映像、すごい!』と思ってしまう。さらに父がやってきてトイレに行くために母をまたいでいく(笑)。これが信友家の日常で、もう撮るしかない。でも『ここは撮れた』と思えば、次からは撮影はせずに手伝うように切り替えをしました」
テーマは重くとも、映画はユーモアと愛に溢れている。特にお父さんが素敵だ。台所に立てなくなった妻のために買い出しをし、95歳にして初めてリンゴの皮をむき、なんと裁縫までこなすようになる。実家に帰ろうかという監督に「あんたはあんたの仕事をせい」とキッパリと言う。
「いままで思ったこともなかったですが、こうしてみると父はなかなかカッコいいなあと(笑)。それに父と母との絆がこんなに強いと初めて知りました。母と私はベッタリの仲良し親子でしたが、いま母は私よりも、やっぱり父を求めるんです。『お父さん、お父さん』って」
お母さんが布団のなかからお父さんに手を伸ばすシーンには思わず涙してしまう。