独特の演出で人気飲食店を生み出してきたカリスマ経営者が映画化される。十数年前に発症した難病で体が不自由になったが、マイナス面ばかりではない。
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ピンクや紫に彩られた店内にメリーゴーラウンドが回る東京・原宿の「カワイイモンスターカフェ」。同店など約500店を運営する外食大手DDホールディングス社長の松村厚久さん(51)は、チェックのジャケットに蝶ネクタイ姿で迎えてくれた。ゆっくりと立ち上がり、あいさつするとソファにそろりと腰を下ろした。
松村さんは30代後半で若年性パーキンソン病を発症した。神経の難病で、手足が震え、動作がゆっくりになるなどの症状がある。厚生労働省の統計によると、2014年時点で国内の患者数は約16万人。完治する治療法は見つかっていない。
「病気になった当初は怖かったですね。でも私は治ると思っています。越えられない試練はありませんから」
松村さんは34歳だった01年に飲食業界に参入。吸血鬼をテーマにした「ヴァンパイアカフェ」、派手な火柱で食材を焼き上げる「わらやき屋」など奇想天外なコンセプトで来店者を驚かせてきた。病気になったのは店舗を次々に増やし、上場も視野に入った「上げ潮」の時期だった。
それまで仕事も遊びもフットワーク軽くこなしていたが、症状が進み徐々に体の自由が利かなくなった。取材当日は自力で歩き、写真撮影のポーズ取りにも難なく応えてくれたが、調子が悪い日は、自力で歩くこともしゃべることも難しい。そのため、若手男性社員が付き人として常にそばにいる。
「体が動かない分、五感が研ぎ澄まされました。逆に病気にならなかったら、遊ぶほうに一生懸命になってしまったかも」
そう笑う松村さんの横で、広報の江角早由里さんは言う。
「松村の体調が悪く、しゃべれないときに店舗を回ると、店のある一点をじーっと見ていることがある。視線の先には、サービスの不足や店舗の課題など、必ず何かがあるんです」
若いころディスコで「黒服」として働いた経験もあり、元々武器としていた観察力が、発症後はさらに高まっている。