「『元気になった。あなたのおかげだ』と言われる時があると、自分の研究に意味があったと実感し、何よりうれしい」
会見でこう語った本庶さん。発見したPD-1が生み出したがん治療薬「オプジーボ」は、何が画期的なのか。「がん治療設計の窓口」事務局長で医学博士の中村健二さんは語る。
「手術で切り取るか放射線でぶっ壊し、あとは抗がん剤で追い詰めるというのが従来のがん治療の戦略。小さな取り残しが再発や転移につながらないよう、抗がん剤で追い詰める考え方ですが、がん細胞は『死んだフリ』をして、抗がん剤の治療が終わったら、また動き始める。しかも抗がん剤は正常細胞まで大きくダメージを与えるので、がん細胞と闘う免疫細胞や抗酸化機能などの生体防御機能まで損なわれてしまう」
しかし、オプジーボは発想が全く異なる。中村さんが続ける。
「普段免疫細胞は不良品のがん細胞を見つけるとやっつけるんだけど、がんが大きくなるとなぜだか攻撃しなくなる。PD-1が免疫細胞にカバーをかけて働かなくしていたのです。じゃあカバーを取ってしまおうというのがオプジーボ。免疫細胞を働きやすくして生体防御機能を大きくし、がん細胞との綱引きに勝とうということです」
がんは、常に存在する不良品たるがん細胞と免疫力のバランスが崩れて起きる生活習慣病とも言える。しかし、免疫療法は“亜流”扱いされてきた。中村さんは言う。
「免疫療法ではオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤の他に、がん細胞と闘うNK(ナチュラルキラー)細胞をリンパ球の培養によって増殖、活性化させる方法があります。これも京大出身の研究者が実用化に成功したもので、劇的な効果も報告されています。しかし、専門医の多くはまだ標準治療にこだわり、免疫療法など他の治療法に患者が接するハードルは高いままです。今回の受賞がそんな意識を変え、免疫療法が身近になる起爆剤になればと思います」
(編集部・大平誠)
※AERA 2018年10月15日号