ノーベル医学生理学賞の授賞理由となった発見は、画期的ながん治療を生んだ。今回の受賞でさらに、がん治療の現場が変わる可能性がある。
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37歳で教授に就任したエリートで、俳優と見紛うルックス。順風満帆な研究者人生を歩んできた京都大学高等研究院特別教授の本庶佑(ほんじょ・たすく)さん(76)が、ついにノーベル医学生理学賞に選ばれた。がん細胞を攻撃する免疫細胞にブレーキをかけるタンパク質「PD-1」を発見したことが、画期的ながん免疫療法に結びついた。がん細胞を除去したり破壊したりする従来の手術、放射線、抗がん剤という3本柱の治療法とまったくアプローチの異なる研究は、がん治療の常識を覆す希望の光となっている。
ついに、と書いたのには理由がある。記者が京都支局で大学担当だった1999年10月、京大医学部長だった本庶さんは既にノーベル賞の有力候補だった。当時取材に応じてくれた本庶さんは、鋭い眼光と白衣姿が印象的な「求道者」の雰囲気を湛えていた。
92年に今回の授賞理由ともなったPD-1を発見以来、毎年のように有力候補として注目されてきたが、本人は記者会見で、「僕はメディアと違ってやることがたくさんあるので、自分で意識することはほとんどなかった」とユーモアでかわした。
研究については自他ともに厳しい態度で臨むことにも定評があるが、ノーベル賞の賞金などを原資に若手研究者を支援する基金を設立する考えも表明するなど、一貫して面倒見のいい親分肌として知られてきた。東京大学の助手から大阪大学の教授に抜擢されたときには東大の学生6人が阪大に移り、阪大から母校の京大教授に転任する際も門下生7人がついていった。
玄人はだしの腕前で知られる趣味のゴルフに加え、研究室対抗のソフトボール大会には4番ピッチャーで出場し、本庶杯と名付けたボウリング大会を開催するなど、溢れる人間味で教え子を引っ張ってきた。