■ロシアの価値観に共感
池上:この戦争が終わったとき、例えば中国、インド、サウジアラビアといった国が勝者として生き残っているという可能性も考えられるでしょうか。
トッド:第1次世界大戦も欧州の中で対立が起き、欧州は自殺するような形で崩れていきましたが、一方で、対立の中から米国の覇権というものが生まれましたよね。その意味で、池上さんのおっしゃったような国々が勝者のような形になることはあり得ると思います。ただ、それらの国は世界の覇権をとるほどではありません。
むしろ、ロシアが勝者になる可能性があるんです。この戦争は単なる軍事的な衝突ではなく実は価値観の戦争でもあります。西側の国は、アングロサクソン的な自由と民主主義が普遍的で正しいと考えています。一方のロシアは権威主義でありつつも、あらゆる文明や国家の特殊性を尊重するという考えが正しいと考えています。そして中国、インド、中東やアフリカなど、このロシアの価値観のほうに共感する国は意外に多いのです。
世界が多極化し分断しても、それが不安定な世界だとは限りません。ロシアの言う「あらゆる文明、あらゆる国家がそれぞれのあり方で存在する権利を認める」世界が支持され、実現するなら、ロシアが勝者になると考えることもできるわけです。
米国が一国の覇権国家として存在し、無責任な行動をとる世界のほうがむしろ不安定化を招くでしょう。この状況は早々に終わらせるべきです。そのためには米国が自分の弱さを認めるしかない。そうしないと「終わり」は来ないのだと思います。
(構成/編集部・小長光哲郎、通訳・大野舞)
※AERA 2023年2月27日号