ウクライナ戦争が始まってから1年。いまだに停戦への道筋は見えないが、この戦争が終わったとき、世界はどうなるのか。歴史人口学者・エマニュエル・トッドさんとジャーナリスト・池上彰さんが語り合った。AERA 2023年2月27日号の記事を紹介する。
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トッド:この戦争が始まったとき、私は地政学の本を書き始めていました。そのときまで、世界は中国対米国という構図で見ることができると考えていました。しかし、米国の生産力が非常に弱まっていることや、中国も出生率が非常に低下していることから、その構図で世界を見るのは正しくないことに気づきました。
私は焦点をロシアに移していきました。すると、ロシアは保守的ではありますが、例えば乳幼児死亡率が今は米国を下回るなど、社会としてある程度安定した国であることが見えてきました。ただ、人口は減少傾向にあり、ロシア的な帝国主義を世界に広めていくほどの勢力ではないことにも気づきました。
では、世界のシステムを考えていく上でどの国が問題なのか。世界が不安定化していくその中心にあり、世界がこれから先に向き合わないといけないのはアングロサクソン圏、とくに米国の「後退のスパイラル」なのだということに気づいたんです。問題はロシアでも中国でもなく、米国なのです。私はいま、よくこう言います。今の人類が直面している問題は二つある。地球温暖化と、米国だと。
この戦争がどういう形で終わるのか、はたして終わりがあるのかわかりません。ただ、さまざまな終わり方の可能性を考えていくと、米国社会が貧困化などの問題で後退のスパイラルにますます入り込んでいくことによる「米国の崩壊」もあり得るのではないかと考えています。フランスのジャーナリストは恐らくロシアのほうが50%くらいの確率で崩壊すると見ているでしょう。でも、私は5%ほどではありますが、米国が崩壊することもあると見ています。
池上:私は、このウクライナ戦争はこの先10年は続く「10年戦争」になると言っています。
トッド:私は5年だと思いますね。人口動態で見るとロシアの人口が最も減り始めるのが5年後であること、また第1次、第2次世界大戦ともに5年ほどで終わったということもあります。