彼女の名刺を持っている若者は一人、二人ではない。「あなたと出会えたのは私のお役目なの」。話し上手であり、何より酒を飲むことが好きな昭恵氏は、こうした若者と膝を突き合わせて話をし、積極的に相談に乗り援助も惜しまなかった。

 民主党政権時の幹部の一人は、昭恵氏と同じ「スピリチュアル系」と呼ばれた鳩山元首相夫人の幸氏とこう対比する。

「幸氏も『私は金星に行ってきた』などと発言して周囲を驚かせました。しかし、昭恵さんのように、自分から若者の立場にへりくだるようなことはしなかった。そこには、政治家の妻というプライドがあったんだと思います」

●「普通でありたい」の姿勢に、現代の若者は共感するのか

 前出のノンフィクション作家・石井氏は、昭恵氏が若者に寛容なのは、自分自身に子どもがいないことも関係していると断言する。

「自分には子どもがいない代わりに特別な使命を与えられている。だから自分は全ての国民の、若者の母、つまり国母という意識があるのです。だから彼らを守り育て、時には援助をしてあげる。彼らの成長を見届けることで、昭恵氏本人も母親的な満足感を得ているのです。こうした若者たちとの出会いが彼女の自信を増幅させたのだと思います」

 森友問題が世間で注目を浴びれば浴びるほど、東京・永田町や地元・下関に昭恵氏の「居場所」はなくなった。落胆する昭恵氏を精神面で支えたのも、こうした若者だった。彼らは安倍政権の政策には全く関心がない。前出の起業家も昭恵氏には極めて同情的だ。

「森友学園の教育は偏った教育かもしれないけれども、昭恵さんは、自分の利益のために動く人ではない。だから、事件が大きく報道された後も、勾留された籠池夫妻の身を案じ、どうしてこうなってしまったのかと戸惑っていたのだと思います」

 昭恵氏とじかに対談したことのある社会学者の西田亮介氏は、評論家のように相手を批判することを嫌う傾向にある現代の若者にとって昭恵氏の「普通でありたい」というメッセージや、全く具体的ではないが「いいこと」をしているかのように見える彼女の言動への漠然とした共感があると分析する。

「昭恵氏がなぜ特別な貢献ができるのか。それは首相夫人であるから。それ以外の理由はありません。彼女の経歴を見ても過去に何かを成し遂げた形跡はない。それなのに首相夫人という立場にいることにコンプレックスを感じているのでしょう。だからあえて首相夫人らしくない印象をSNSを使って量産し、世間の共感を集めることで、自分自身を肯定しようとしたのではないでしょうか」

 友達だから。いいことをしているから。だから応援する。昭恵氏の無自覚な「公私混同」ぶりは、政府や党の人事などで身内ばかりを優遇すると評される安倍政権の体質と無関係ではないはずだ。(編集部・中原一歩)

AERA 2018年9月24日号