体操女子の宮川紗江選手(右)と速見佑斗元コーチ(左)。速見元コーチは指導で暴力があったことは認めたが、宮川選手が「一緒に2020年東京五輪をめざしたい」と希望しているため、指導再開の意向も示している (c)朝日新聞社
体操女子の宮川紗江選手(右)と速見佑斗元コーチ(左)。速見元コーチは指導で暴力があったことは認めたが、宮川選手が「一緒に2020年東京五輪をめざしたい」と希望しているため、指導再開の意向も示している (c)朝日新聞社
高校部活動で女子が受けた競技別の体罰経験(AERA 2018年9月24日号より)
高校部活動で女子が受けた競技別の体罰経験(AERA 2018年9月24日号より)

 女子のスポーツ界を巡って、体罰やパワハラなどの問題が表面化している。「女子には自律性が足りない」という根拠なき社会認識が問題を助長している。

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 リオデジャネイロ五輪体操女子団体で4位入賞に貢献し、10月開幕の世界選手権(カタール)代表候補でもある宮川紗江選手(19)に暴力を振るったとして、速見佑斗元コーチ(34)が日本体操協会から無期限の登録抹消などの処分を受けた。同協会によると、2013年9月から18年5月にかけ、宮川選手の顔を手でたたく、髪を引っ張るなどの暴力や暴言を繰り返したとされる。会見した速見元コーチは暴力を認め、「不快な思いと恐怖を与えた」と謝罪した。

 一方で宮川選手が、塚原光男副会長(70)と千恵子・女子強化本部長(71)の夫妻からのパワハラを告発。二つの問題が複雑に絡み合う異常事態となっている。

 12年に大阪市の高校生がバスケットボール部顧問の暴力やパワハラ指導を苦に自殺したことなどを機に、スポーツ界は暴力根絶に向けて動き出した。それから6年。いまもって日本代表クラスの選手が暴力指導を受けているという事実は衝撃的だ。

 宮川選手が速見元コーチから平手打ちされる暴力動画がテレビ放映されると「あそこまで殴るなんて」と非難の声はさらに拡大した。特に、体格的に劣る女子選手を男性コーチが殴るという構図は、理解しがたい。

 ところが、スポーツ指導の現場にいる人の感覚は少し異なる。関東地方でミニバスケットボールの指導をする50代の男性コーチは明かす。

「女子への暴力が発覚して処分されるコーチは小学生チームにもいる。大会のベンチを見ればわかるが、女子チームのコーチのほうが暴言もひどい。怒鳴られたら女の子は萎縮する」

 体操の問題が発覚する以前にも、女子レスリングで強化本部長の、水球女子でも日本代表監督のパワハラ騒動があった。

「女子は受け身なので、男子よりも(暴力や暴言等で)刺激して動かさなければ強くならないと考える人は昔から少なくない」(前出のミニバス男性コーチ)

 そんな“スポ根”漫画さながらの空気が、いまもスポーツ界にはびこっている。

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