「働き方改革」で管理職は部下の仕事を肩代わり。部下の負担は減り定時に帰れるゆとりが生まれたが、各所で弊害が生じている。
部下のほうは、いつしか残業ゼロを当たり前だと思うようになったと、大手商社で働く40代前半の課長は明かす。取引先との会食の席で、部下のスマートフォンがメールの着信音を鳴らした。だが会が終わってもメールを確認しない。わけを聞くと、
「勤務時間外ですから」
続けて、
「この接待が残業にならないのは、どうしてですか?」
かつてモーレツの代名詞だった商社。課長はため息をつく。
「若手社員は仕事を楽勝だと思っていますよ」
だがハラスメントの意識も高まり、強く指導しにくい。
「自分は修羅場をくぐって育ってきた。それ以外の部下教育法は知らないですね……」
一方、同じ会食の状況でメガバンクの20代半ばの行員はメールを確認した。だが困った顔をして、上司の次長に「返信してもらえないですか」と頼んだ。
「勤務時間外にメールを返信した記録が残ります。次長が労働組合に『時間外も働かせている』と責められてしまう」
かくして管理職ではない社員は会社を早く出る。そのあとの時間をどう使っているのか。商社の課長によれば、「家でネットを見ているか、友だちとごはんを食べているだけ」だそうだ。
「若手ほど自己研鑽に時間とお金を投資すべきなのに。将来に向けて何をすればいいのか、わかっていない」(課長)
30年後には、学校の授業時間が少なかった「ゆとり世代」のように、労働時間が短い「働き方世代」と称されるのではないか。若手社員の未来を危ぶむ。
もちろん、仕事に燃える社員もいる。午後6時をまわり、大手自動車会社の50代半ばの部長が「さあ、早く帰れ」と声をかけると、部員が近寄ってきた。
「今日中に、この仕事をやりきりたいんです。残業させてください。残業代はいりません」
この部員には重要な案件を任せていた。たしかに早くまとめてほしい。懇願を受け入れて残業を認めたら、のちに人事部長に長々と嫌みを言われたそうだ。
残業時間の短縮と、部下の責任感や向上心。どちらを優先すればよかったのか。メガバンクに勤める40代半ばの次長が言う。