2003年8月──。フランスは猛暑に見舞われ、1万5千人の死者が出るという大惨事になった。犠牲者の約8割は75歳以上の高齢者。西欧の福祉に詳しい明治学院大学名誉教授の河合克義さんはこう話す。
「死の原因は、日本なら自然現象の問題として片づけられたでしょうが、フランスでは、猛暑でも高齢の問題でもなく、孤立が根本にあるとし、政治の責任が言われ、フランス全土で孤立問題に取り組む大きな契機になりました」
それまでは高齢者の孤立問題に対し、自治体やNPO団体、市民団体などが個々に取り組んでいた。12年に高齢者の孤立問題を担当する大臣のミッシェル・ドゥネロ氏が、半年間の作業グループを設置し、個々の活動の課題や問題点を集約。そのリポートをもとに高齢者の孤立支援の全国本部として14年に結成したのが「モナリザ」だ。レオナルド・ダビンチが描いた油彩画ではなく、フランス語の「MObilisation NAtionale contre L’ISolement des Ages」の略称だ。
「活動の内容を踏まえて訳せば<高齢者の社会的孤立と闘う国民連帯>。市民が地域のNPO、市民団体、地方自治体、専門家とつながり、自宅訪問、買い物の介助など、国民全体で高齢者の孤立を防ぐ取り組みです」
孤立問題解決のための行動指針をうたう「モナリザ憲章」を定め、賛同する40組織でスタートしたが、現在は700を超える組織が活動している。河合さんはこう指摘する。
「西欧ではNPOが政治に提言できるほどの力があり、民主主義への国民の理解も深く、地域から政治を動かす力があります。モナリザも市民団体の声から始まっています」
昨今、日本では高齢者の孤独死などが問題になっている。
「高齢者の孤立問題は、西欧より日本のほうが深刻です。国の解決方策が求められていますが、国民ももっと関心を持つことが必要ではないでしょうか」
(編集部・澤田晃宏)
※AERA 2018年9月3日号より抜粋