「濱口方式」と言える本読みの仕方も独特だ。セリフからニュアンスを抜いて読む。つまり、感情を排したコンピューターが音を読み上げるようにして何百回も台本を読むのだ。感情を込めて読むのは本番一回のみ。すると、確かに演じ分けを意識する必要はなくなっていた。
「監督は1に相手、2にセリフ、3、4がなくて5に自分とおっしゃってたんですが、それは本当にそうだなと。芝居は生もの、全てを捨てること。この作品で芝居の根源的な、大切なことを再確認できました」
消えた愛する人にそっくりな男性に惹かれたものの、かつての恋人が再び目の前に現れたとき、ヒロインはどちらを選ぶのか。出来上がった映画は、東出の想像からことごとく外れていたと言う。
「わかりきった台本だったのに、咀嚼(そしゃく)しきれない感じ。何が正解だったかわからない作品になった。見られ方を限定していない映画です」
俳優デビューして6年。今年は映画だけで主演を含む5本の作品に出演する人気者だが、
「胸を張って出せる1本だと思っているので、今後は一本一本に力を入れて演技することに誇りを持っていきたい。お仕事をいただける限りは自分のいいペースを考えながらやっていきたいと思います」
(文中一部敬称略)(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2018年9月3日号
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