03年には東京・浜松町に「自由劇場」を開場。再びせりふ劇の演出に力を入れた。三島由紀夫作「鹿鳴館」や、平幹二朗さんを主演に招いた「ヴェニスの商人」など、印象に残る舞台も数多い。

 東日本大震災の起きた11年の夏、ミュージカル「ユタと不思議な仲間たち」を持って被災地を回り、子どもたちを励ましたことも忘れがたい。

 14年、四季の経営から退いて以降は、「一演出家」として、自由劇場で、過去に手掛けた作品の再演を精力的に続けた。中でも「李香蘭」は繰り返し取り上げ、今年4月にも上演した。

 その舞台を見ながら考えた。

 初演から27年。戦争を体験として語れる人は減り、主人公のモデル山口淑子さんも4年前に世を去った。かつて日常のそこここにあった戦争の記憶は、急速に薄れている。

 そんな時代だからだろうか。史実が平板に並び、魅力に欠けると思っていた場面が、「教科書」として、これも必要かもしれないと感じられた。終幕の「怨みを怨みで返さず、徳をもって報いる」メッセージも、不寛容がはびこるいま、より切実に響く。

 劇団経営者としての数々の成功によって演出家・浅利慶太は、鍛えられた俳優、優れたスタッフ、十分な制作費という環境を手にした。そこから、「戦争を語り継がねば」という強い思いを込めた良質なオリジナルミュージカルを生んだ。これが生前に上演した最後の舞台となった。(朝日新聞編集局・山口宏子)

AERA 2018年7月30日号

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