藤田教授らが作った籠状の分子の中に調べたい分子を入れれば、分子を整列させることができるうえ、必要なサンプルが従来の1千分の1程度で済むことがわかった。

(分子)を無理やり整列させる代わりに、猫が居心地のいい籠(かご状分子)を規則正しく配置して、その中に入ってもらうようなものです」

 2013年、この「結晶スポンジ法」が英科学雑誌「ネイチャー」に掲載されると、世界中の研究者から「すぐに使わせてほしい」というメールが何百通と届き、同誌の「月刊論文ダウンロードランキング」でも1位を記録した。

 結晶スポンジ法でのX線解析はすでに医薬品や調味料など300以上の新物質の解析に活用されている。

「化学の新しい歴史を刻みたいという思いで、地道に基礎研究を続けてきました。予想外の反響で“ヒットチャート”を賑わせましたが、ヒット曲を出すのもたまにはいいですね。今回の受賞の追い風にもなったと思います」

 授賞式に同席した妻の敦子さんは、千葉大大学院時代の後輩で、化学会社の研究者でもある。取材に対し、「夫の発想は斬新。やっぱり、役に立たない化学は面白くないですよね」と笑顔を見せた。(週刊朝日編集部・野村美絵)【取材協力/イスラエル大使館】

AERA 6月18日号