森村:風景画というジャンルが確立する以前に描かれた、物語や神話の風景画が紹介されている前半部分も、私にとっては印象深いですね。過去の画家たちが風景を描くことで感じた喜びは、自分が作品を描くときの同じ気分として伝わってきました。もちろんユーモラスなテーマのルソーの「馬を襲うジャガー」や、絵から風を感じるコローの「夕暮れ」、セザンヌにしては珍しいほど描き込まれた「サント=ヴィクトワール山、レ・ローヴからの眺め」など素晴らしい作品ばかりです。館内を回ると、絵のなかでぐるっと世界を旅することができる構成も、新鮮でした。
ロシャク:森村さんの作品を見るたび特に強く感じていたのですが、やはり森村さんの絵の解釈と、私の絵の解釈には近いものがありますね。加えてアーティストとして生きる才能を持っている。だからこそ、森村さんの作品を高く評価しています。私が心から共感できる、すばらしいアーティストだと思っていますよ。
森村:ありがとうございます。でもその意味では、ロシャク館長もアーティストといっていいのではないですか? 芸術家は物を作るときには、心の中を自由にしなくてはいけないけれど、ロシャク館長はそれを受け止めてくれる人。そしてその自由を楽しんでくれる人でもありますね。
ロシャク:いえいえ、私のことを、果敢に冒険する館長と思っている人もいるかもしれませんが、勇気を持ってプーシキンのコレクションを作り上げてきたコレクターたちと同じで、実はいつもおびえはあります。そのおびえが大きくならないうちに、思ったらすぐ行動に移してしまう。それだけなんです。そういえば昨年の個展のときに、私のオフィスである館長室にお招きしましたよね?
森村:はい。荘厳な館長室だったと記憶しています。
ロシャク:その後、館長室を改造して、あの空間そのものをインスタレーションとして公開するようになりました。あるプロジェクトでは、私が1950年代に着ていたワンピースを展示したことも。やはり芸術とは、遊び心なしで語ることはできません。森村さんにも、早く見ていただきたいですね。
森村:それは楽しみです。プーシキンでの個展のときに初めてロシアに行って、わかったことがあります。日本とロシアには距離がありますが、日本の人とロシアの人の感受性には、近いものがあるようなのです。自分と重なる感性を感じました。ロシャク館長は、そんなきっかけをつくってくれた、大切な人です。先ほどおっしゃっていた、新プロジェクト。覚えておいていいですか?
ロシャク:もちろんです。今後も、一緒に何か冒険ができるといいですね。
(構成/ライター・福光恵)
※AERA 2018年6月4日号